牛は何を食べているの?飼料の種類をざっくり解説

牛舎でTMR(混合飼料)を食べるホルスタイン牛のイラスト 酪農編

「牛=草を食べる」というイメージ、ありますよね。 のどかな牧場で、のんびり草をはむ牛の姿。絵本や広告でもよく見るあの風景です。

これ、半分正解で半分ちょっと違います。

確かに草は食べます。でも実際の酪農現場では、草だけじゃなくていろんな種類の餌をバランスよく組み合わせて牛に与えています。そのバランスが崩れると、牛の体調や牛乳の量にすぐ影響が出てくるくらい、餌って大事なんです。

今回は「牛って実際何を食べているの?」という疑問に、牧場スタッフ目線でざっくり答えていきます。専門的になりすぎず、でもちゃんと伝わるように書くので、気軽に読んでみてください。


そもそも牛はどんな動物?~餌を理解するための前提~

飼料の話に入る前に、少しだけ牛という動物の体の話をさせてください。これを知っておくと、なんで草だけじゃダメなのか、なんでTMRが必要なのかが自然と納得できます。

牛は「反芻動物(はんすうどうぶつ)」です。 一度飲み込んだ食べ物を口の中に戻して、またゆっくりかみ直す…あのモグモグしてる姿、見たことある方も多いんじゃないかと思います。あれが反芻です。

そして牛の胃は全部で4つあります。第一胃(ルーメン)、第二胃(ハチノス)、第三胃(センマイ)、第四胃(ギアラ)。焼肉好きな方にはおなじみの名前かもしれません笑。

牛の4つの胃(第1胃・第2胃・第3胃・第4胃)の構造と食道・小腸のつながりを示した断面図イラスト

この中でも特に重要なのが第一胃(ルーメン)。容積が約200リットルもある巨大な発酵タンクで、ここに無数の微生物が住んでいます。この微生物たちが繊維を分解してくれることで、牛は人間には消化できないような草や繊維質のものからもエネルギーを取り出せるんです。

だからこそ、繊維質の多い粗飼料がとても大切になってきます。ルーメンの中の微生物が元気に働けるような環境を保つこと、それが牛の健康管理の基本でもあります。

こういう体の仕組みを知ってから餌の話を見ると、「なるほどな」ってなりませんか?私も改めて整理してみて、牛ってすごい体してるなと思いました。


① 粗飼料(そしりょう)~牛の主食~

まず牛の主食ともいえるのが「粗飼料」。草や牧草、わらなど、繊維質が多い餌のことです。

さっき話したように、牛のルーメンを健康に保つために繊維はとても重要。粗飼料をしっかり食べることで、ルーメンの中の微生物が活発に働いてくれます。逆に粗飼料が少なすぎると、ルーメンの環境が悪くなって体調を崩す原因にもなります。

代表的な粗飼料をいくつか挙げてみます。

【牧草】

チモシーやアルファルファなど。タンパク質が豊富で、乳牛にはよく使われます。ただし水分が多いので、刈り取ってからそのまま保存するのは難しい。だから乾燥させた「乾草(かんそう)」や、発酵させた「サイレージ」の形で使うことが多いです。

【わら】

稲わらや麦わらなど。栄養価は高くないですが、繊維が豊富でルーメンを刺激するのに向いています。他の飼料と組み合わせて使うことが多いです。

そして粗飼料の中で特に重要なのが…【サイレージ】になります。

サイレージって何?

「サイレージ」という言葉、農業に馴染みのない方はあまり聞いたことがないかもしれません。

簡単に言うと、牧草やトウモロコシなどを発酵させて保存した飼料です。漬物みたいなイメージが近いかもしれません。乳酸菌の力で発酵させることで、長期間保存が効くようになります。

作り方はざっくりこんな感じです。刈り取った草やトウモロコシを細かく刻んで、空気が入らないようにギュッと密封する。すると乳酸発酵が進んで、酸性になることで腐らずに保存できます。

保存の形はいくつかあります。

【ロールベールサイレージ】

牧草をロール状に丸めてラップフィルムで包んだもの。牧場の周りに白いロールが並んでいる風景、見たことある方も多いんじゃないでしょうか。あれです。

【バンカーサイロ】

コンクリートで囲まれた大きな溝のような施設に飼料を詰め込んで、シートで覆って密封するもの。大量に保管できるので、規模の大きい牧場ではよく使われます。

北海道ではこのサイレージ作りが夏の一大イベントです。デントコーン(飼料用のトウモロコシ)や牧草を一気に収穫して、冬の分まで確保する。収穫のタイミングや水分量の調整が品質を左右するので、この時期は天気予報とにらめっこしながら進めます。

バンカーサイロとロールベールサイレージが並ぶ北海道の牧場風景のイラスト

② 濃厚飼料(のうこうしりょう)~エネルギーを補う~

粗飼料だけでは、牛乳をたくさん出すためのエネルギーが足りません。そこで登場するのが「濃厚飼料」です。

トウモロコシや大豆粕、ふすまなど、栄養価が高い原料を配合したもので、「配合飼料」とも呼ばれます。粗飼料と比べてエネルギーやタンパク質が豊富で、乳量を維持・向上させるために欠かせない存在です。

乳牛って、想像以上にエネルギーをたくさん使います。毎日20〜30kg以上の牛乳を出す牛もいて、そのぶんだけ栄養が必要になります。草だけ食べていたら、消費に全然追いつかないんです。

濃厚飼料の主な原料を少し紹介します。

【トウモロコシ】

エネルギー源として優秀。でんぷん質が豊富で、牛のエネルギー補給に広く使われています。

【大豆粕】
タンパク質が豊富。搾乳牛には特に重要な原料です。

【ふすま】

小麦を製粉したときに出る外皮の部分。繊維も含みながら栄養もあるので、粗飼料と濃厚飼料の中間的な役割をしてくれます。

ただし、濃厚飼料は与えすぎると問題が起きます。

ルーメンの中の環境が酸性に傾きすぎて「アシドーシス」という状態になると、食欲が落ちたり蹄が弱くなったりすることがあります。栄養があるからといって多ければいいわけじゃない。粗飼料とのバランスが本当に大事で、このあたりが餌管理の難しいところでもあります。


③ TMR(混合飼料)~全部まとめて混ぜる~

最近の牧場でよく使われているのが「TMR(Total Mixed Ration)」、日本語でいうと「完全混合飼料」です。

名前のとおり、粗飼料と濃厚飼料をあらかじめ全部混ぜた状態で給与する方法です。

なんで混ぜるの?と思うかもしれませんが、これにはちゃんと理由があります。

牛って、実は好き嫌いがあります。濃厚飼料のほうが美味しいのか、そっちを先に食べて粗飼料を残したりすることがあるんです。バラバラに与えると栄養が偏りやすくなってしまう。TMRにして混ぜてしまえば、どの一口でも同じ栄養バランスになるので、牛が選り好みできなくなります。

これって単純なようで、牛の健康管理にとってはかなり重要なポイントです。

TMRを作るには「TMRミキサー」という機械を使います。大きな縦型や横型のミキサーに粗飼料・濃厚飼料・水分調整のための材料などを入れて、ぐるぐる混ぜる。できあがったものをフリーストールの通路に並べて、牛が自由に食べに来るスタイルです。

TMRセンターの建物から飼料を積んだトラックが出発する作業風景のイラスト

ちなみにですが、うちの牧場ではTMRの製造は「TMRセンター」にすべてお任せしています。TMRセンターというのは、とても簡単に表現すると学校の給食センターのようなものだと思います。TMRを作る作業は実は結構大変な作業になるので、それを代わりにやってくれて配送までしてくれているのがTMRセンターです。

飼料の細かい設計は「農業改良普及員」さんに見てもらっていて、牛の状態や季節に合わせた内容を専門家と一緒に考えていく形になっています。

自分たちで毎日ミキサーを回すわけではないですが、届いた飼料の状態を確認したり、牛の食い込み具合を見て気になることがあれば相談したりしています。そういう連携がちゃんと機能しているおかげで、牛の栄養管理が成り立っています。


餌の費用~これが地味に大変~

少し現実的な話もすると、飼料に掛かるコストは酪農経営の中でかなり大きな割合を占めます。

特に濃厚飼料の原料(トウモロコシや大豆粕)は輸入に頼っている部分が多く、為替の影響をもろに受けます。ここ数年は円安や国際的な穀物価格の上昇で、配合飼料の価格がかなり上がっていて、全国の酪農家が頭を抱えている状況です。

自給飼料(自分の農場で作る牧草やデントコーン)を増やせれば外部への依存度を下げられますが、それには農地や機械、労力が必要。なかなか簡単にはいきません。

こういうコストの問題も、酪農の現場では日常的に意識していることのひとつです。牛乳1本の値段の裏に、こんな事情があったりします。


まとめ

牛の食事をざっくり整理するとこんな感じです。

種類内容主な役割
粗飼料牧草・サイレージ・わらなどルーメンを健康に保つ・主食
濃厚飼料トウモロコシ・大豆粕・ふすまなどエネルギー・乳量アップ
TMR上の2つを混ぜたもの栄養バランスを均一に

牛=草だけ」じゃなくて、いろんな飼料をバランスよく組み合わせているんです。そしてそのバランスが崩れると、体調や乳量にすぐ影響が出てしまう。だからこそ日々の餌管理は、かなり奥が深い仕事だなと感じています。

今日はここまで!またね!

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